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UTAU音源配布所

小森の日記
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ウカ様を祀っていた祠が閉ざされて三日。
村の空気は重いままなのに、誰もそれを言葉にしようとしない。
そんな中で、長が「新たな神が顕れる」と言った。
「タキタテサマ」と呼ばれるものの名は、
なぜか昔から知っているような、不気味な響きを持っていた。
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今日、田の真ん中に、急ごしらえの祭壇が建てられた。
白い仮面、穂束、鈴。
その上に掲げられたのは、ウカ様が握っていた米粒の模様に似た印だった。
「この神が、新たに我らを守る」と長は言った。
でも、それを見たとき、俺は言葉にならない寒気に襲われた。
誰かを“供物”にして生まれたような、そんな気配だった。
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俺は一人で、祭壇の近くまで行った。
風もないのに、鈴が鳴った。
そして、仮面の奥から、赤い目が光るのを見た気がした。
ウカ様と同じ赤い目――けれどそこに宿っていたのは、
あの優しい眼差しではなかった。
それは“命を数えるもの”の目だった。
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村では次々に、枯れていた作物が実りはじめた。
人々は喜び、「タキタテサマの御加護」と言って、祭りを準備している。
でも俺は知っている。
あの神は、何かを“代償”にして、実りを差し出している。
ウカ様の死を、誰も悼まないまま、
別の神にすがることで忘れていく――
俺は、それがとても怖い。
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