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UTAU音源配布所

小森の日記
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朝は涼しくなった。棚田の水も冷えてきた気がする。
ウカさま、また村の端でひとり座っておられた。
風に揺れてた白髪が、稲の穂みたいで、きれいだった。
声かけると、にこっと笑って「風が喋ってる」っとおっしゃられた。
神さまは、いいなぁ。
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今日の祈りは、風の祠。
ウカさまがひとこと唱えるたびに、風が枝を鳴らした。
村のばあさまたちは「今年も豊作じゃ」と喜んでいた。
お礼にと、炊きたての白米に梅干しをのせて供えた。
ウカさまはそれをちょっとつまんで、「おいしい」と笑った。
あれを聞くと、俺もほっとする。
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今日は祭の準備。村の子らが鈴の飾りを作ってた。
ウカさまは米俵の上でうとうとしてて、頭にヒバの葉が乗っていた。
それを外したら、「鳥の夢を見た」っておっしゃっていた。
俺はまだ夢の中に神さまは出てきてくれないけれど、
ウカさまが見る夢なら、きっとやさしいものなのだろう。
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夕餉を届けた。いつもと同じ、精進料理。
ウカさまは小屋の奥で、何か布に字を書いていらした。
「言葉は風になる。風はいつか、実りになる」
そう書かれてた。
たぶん、意味はまだよくわからない。
けど、風のような言葉だった。やさしい。
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今夜、満月。
ウカさまの小屋の前で、子どもたちがわらべ唄を歌ってた。
「おこめ、ゆらゆら ゆめのなか」
ウカさまは遠くからそれを見ていた。微笑んでいた。
ずっと、このままだと良い。
ずっと、こんな晩が、続くと良いな。
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